【インタビュー】「現場を知る人」であり続けたい——ゼネコンから専門工事業へ、Nさんの選択 | どぼジョブ!

【インタビュー】「現場を知る人」であり続けたい——ゼネコンから専門工事業へ、Nさんの選択

建築業界には、ゼネコンの施工管理、専門工事業、設計事務所、ハウスメーカーなど、さまざまな働き方の選択肢がある。それぞれに固有のやりがいと役割があり、キャリアの組み立て方も人によって違う。

ゼネコンで6年間、社員寮・民間マンション・県営団地と多様な物件の施工管理に従事してきたNさん。一級建築施工管理技士、二級建築士をはじめ9つの資格を持つ彼女が2024年に選んだのは、「専門工事業へ移る」というキャリアだった。

その背景には、家業を継ぐという目的と、長く現場に関わり続けたいという思いがあった。建築の現場で6年以上を過ごしてきた女性技術者に、施工管理という仕事のリアル、女性が現場に立つということ、そしてキャリアの選び方について話を聞いた。


施工管理という仕事は「現場の司令塔」

——まず、建築施工管理という仕事を一言で説明するとどんな仕事ですか?

現場の司令塔、ですね」

迷いなくそう答えたNさん。建築物が図面通りに、安全に、決められた期日までに完成するよう、職人や協力会社、発注者の間に立って全体を動かしていく仕事だ。

建物を建てるのは、設計図さえあれば自動的にできるわけではない。100人以上の職人さんが入る現場もあり、彼らが動きやすいように段取りを組んで、品質を担保して、何より誰も怪我をしないように見届ける。それを統括するのが施工管理の役割である。

工程管理・品質管理・安全管理——通称「QCD」と呼ばれるこの3要素を、現場のあらゆる動きを把握しながら回していく。

実家は工務店。建築は子どものころから「身近な選択肢」だった

——2018年に大手ゼネコンに入社されていますが、建築の世界に進もうと思ったきっかけは何でしたか?

「実家が工務店だったんです。小さいころから現場が身近にあって、高校生のときには進路の選択肢として建築が浮かんでいました」

大学では環境デザインや設計系の学部を選び、就職活動でも建設業界を中心に受けたという。地元で名の知れたゼネコンに入社が決まったとき、家族や周囲の反応はどうだったのだろうか。

「会社自体は地元で有名なので、福利厚生も含めて安心してもらえました。ただ、『現場で働く』ということに対しては心配されましたね。」

なぜ「設計」ではなく「現場」を選んだのか

——数ある職種の中で施工管理を選んだ理由は?

「もともと入社した会社が『最初は現場を経験してから』という方針だったんです。最初は設計志望でした。でも実際に現場に立ってみると、『これは続けてもいいな』って思えたんですよね」

人手不足や天候による工程のズレで、施工管理の自分自身が作業に入ることもあった。それでも現場は彼女を引き寄せた。


6年間で経験した、規模もタイプも違う現場たち

社員寮・マンション・県営団地——「建物が違えば、確認するところも違う」

ゼネコン時代に担当した物件は、社員寮、民間マンション、県営団地と幅広い。それぞれに固有の難しさがあったという。

「建物のタイプが違えば、構造もディテールも全部違うんです。毎回、新しく勉強しなおすところがあります」

責任者(トップ)として運営した物件は3件、サブとして関わった物件は3〜4件。小規模なら半年から8か月、大規模になると2年ほどかかる現場もあった。

「最初は経験豊富な上司のもとについて、現場で学んでいく。そこから少しずつ規模や難易度の高い物件を任されるようになっていく、というキャリアパスでした」

最も神経を使うのは「安全管理」

——工程・品質・安全の3つのうち、最も神経を使うのはどれですか?

安全管理ですね。文字通り、現場の隅から隅まで歩き回ります。肉体的にもかなり疲れる。でも、ここを抜くわけにはいかないので」

安全管理の難しさは、見回りや指摘の物理的な負担だけではない。職人さんとのコミュニケーションの中で色々教えてもらえるとのこと。

「間違いやミスの報告、工程の遅延の相談——私に先に持ってきてくれる」

「自分が変わった」と思える、3年目のプロジェクト

——6年間で最も印象に残っているプロジェクトは?

「3年目に、自分がトップで運営した物件です。それまでは上司の下についていたので、いざ全部を自分でやるとなったときに、流れをつかむまでが本当に大変でした」

一番学んだのは、自分からヘルプを出すこと。全部抱え込もうとすると現場は回らない。誰に何を頼むか、上司にいつ相談するか。その判断ができるようになったのが、あのプロジェクトでした」

施工管理の仕事は、技術的な知識だけでなく、こうした「他者を巻き込む力」が成長を決める。Nさんがそれを体得したのが、まさにこの3年目だった。


9つの資格を持つ女性技術者の、資格との付き合い方

Nさんが保有する資格は実に多彩だ。一級建築施工管理技士、二級建築士、玉掛、フルハーネス、足場、低圧電気など、その数9つ。

「ほとんど社会人になってから取りました。一級建築施工管理技士は会社都合——主任技術者として現場を任されるために必要だったんです。当時、受験には実務経験年数の要件があるので、経験を積みながら計画的に取得していきました」

「環境に恵まれていた」と振り返る、勉強時間の作り方

平日は定時で退勤し、日曜は資格学校に通う。それを継続できる環境にいたことが大きかったと、Nさんは振り返る。

「建築業界って、まだまだ残業が多いイメージがあると思うんです。でも、会社が資格取得を後押ししてくれる文化があると、勉強時間が確保できる。私はその点で恵まれていました」

「一級建築施工管理技士を取って、現場の目が変わった」

——「この資格を取ったことで仕事の見え方が変わった」というものは?

「やっぱり一級建築施工管理技士です。これを取ると主任技術者になれる——つまり、現場の責任者として認められる立場になる。実務に直結する資格なんです」

「面白いのは、資格を取ると現場の人たちの目も変わるということ。職人さんも『この人は分かっている人だ』と見てくれるようになる。資格は現場で使える道具なんです」

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女性技術者として、現場に立つということ

女性の割合は「施工管理で20人に1人」——少ないが、増えてきている

——建築現場における女性技術者の割合は、体感でどれくらいでしたか?

施工管理だと20人に1人くらい。現場全体で見ると、職人さんも含めればもっと少なくなります。ただ、年々増えていますね。新卒で入ってくる女性も増えているし、現場の雰囲気も変わってきている実感があります」

「女性だから」と意識する瞬間、活きる瞬間

「重い物を運ぶような作業のときは、どうしても人の力を借りないといけない。若手の女性が年上の男性に助けを求めると、わりとみなさん助けてくれるんですよ」

「キャリアが上がってくると、今度は対等な関係になる。職人さんから『とりあえずNさんに話しかけよう』と言われるようになって、仲介役を任されることが増えました。」

これは「女性だから活きる場面」のひとつだろう。現場の情報が集まる結節点になれる——それは性別とは別の、技術者としての資産になる。

「身構えなくていい。みんなプライドを持って働いている」

——これから現場に入る女性に「これだけは伝えたい」ことは?

「現場って、男性社会で怖い人が多そう、というイメージがあると思うんです。でも、実際はそんなことない。職人さんもみなさん、プライドを持って仕事に取り組んでいる。こちらが真摯に向き合えば、もめることなく対応してくれます」

「だから、身構えなくていい。女性だから特別扱いされるとか、いじめられるとか、そういう極端なことはほとんどない。普通に技術者として向き合えば、ちゃんと返してくれる業界です」


ゼネコンから専門工事業へ——なぜキャリアを動かしたのか

家業を継ぐために、もう一度学び直す

——2024年に専門工事業へ移られています。この決断に至った理由は?

実は2022年から、家庭の事情で、家業を継ぐ準備を始めていたんです。それで、ゼネコンを離れて専門工事業の世界に入りました」

ゼネコンの施工管理として6年間培ってきたものを、専門工事業の文脈に置き直す。一から学び直すような場面も多いという。

「ただ、ゼネコン側で『現場に何を求めるか』を経験してきたからこそ、専門工事業として何を提供すべきかが見える——これは大きな強みです。」

ゼネコンの監督が何を見ているか、何を期待しているか。それが体に浸透しているので、専門工事業として仕事を受けるときに、相手の期待値を読み違えないということなのだろう。

同じ建築業界でも、求められる動き方が違う

——ゼネコンの施工管理と、専門工事業の品質管理——立ち位置や見える景色は違いますか?

全然違いますね。ゼネコン時代は一つの現場をどっしりと管理していました。今は、30現場を同時に対応するような働き方になっています」

「一つの現場を深く見るのか、多数の現場を横断して品質を担保するのか。同じ建築の世界でも、求められるスキルセットが大きく変わってくる。どちらが上ということではなく、必要なスキルの方向性が違うんです。今はその切り替えの真っ最中で、毎日勉強中です」

「女性が戻ってきやすい環境を作りたい」

——今後5年、10年でどんな技術者になっていたいですか?

女性の現場技術者って、リタイア率が高いんです。結婚、出産、育児で離れる人も多い。でも、その人たちが戻ってきたいと思ったときに、戻ってこられる環境がまだまだ整っていない」

専門工事業で経験を積んで、いずれは女性技術者が働き続けられる環境を作っていきたいとのことだ。


これから建築業界を目指す人へ

完成したときの「ありがとう」が、すべてを肯定してくれる

——「建築は男性の仕事」というイメージはまだ根強いですが、それでもこの業界に来てよかったと思える瞬間は?

建物が完成したときに、関係者の方から感謝されたり褒められたりする瞬間

何ヶ月、何年とかけて自分が関わってきたものが、形になって、人に使ってもらえる。これは設計の世界にも、現場の世界にもある喜びだ。

「AIに取られない仕事。資格を取れば、全国どこでも働ける」

——最後に、この業界に飛び込もうか迷っている方へメッセージを。

「建築の施工管理は、AIに代替されにくい仕事だと思っています。機械化できない部分が多い。また人手不足の業界なので、今後、賃上げの可能性も高い

「そして何より、資格を取れば全国どこでも仕事ができる。地方に移っても、結婚や出産で一度離れても、戻ってこられる職業です。独立も視野に入りますし、元いた会社から仕事をもらえることもある。最初の一歩を踏み出せば、そこから先の選択肢はかなり広い業界だと思います」


編集後記:自分の目的から、働き方を選ぶ

ゼネコンと専門工事業。建築業界には複数の役割があり、それぞれが現場を支えている。Nさんのキャリアは自分の目的に合わせて働く場所を選んできた軌跡だ。

家業を継ぐという具体的な目的があり、ゼネコンで培った視点を専門工事業の現場で活かしている。そして、その先には「女性技術者が戻ってこられる場所をつくる」という、業界全体への問いかけが続いている。

施工管理という仕事の魅力、女性として現場に立つことのリアル、そしてキャリアを自分で設計することの面白さ。建築業界への転職を考える女性にとって、Nさんの言葉のひとつひとつが、現場のリアルな手触りとして残るのではないだろうか。

身構えなくていい」——その一言を胸に、私も一歩踏み出してみようと思う。


この記事の著者 Writer

ウナロジー

ウナロジー

金融機関では法人営業、コンサルファームにおいてインサイドセールスを実施した経験があります。無形商材に強みのあり。また、コンサルティングファームでは人的資本経営の戦略立案など行う。

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